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研究テーマ

1.癌内線維芽細胞(CAFs)の癌悪性化機構の解明

2.CAFsの癌促進能の維持機構および細胞多様性の調節機構の解明

3.CAFsを標的にした新規癌治療法の開発

研究テーマ概要

1.CAFsの癌悪性化機構の解明

   CAFsが様々な増殖因子やサイトカインの産生を介して近傍の癌細胞に作用し、癌の増殖や進展を促進していることが知られている。

   我々の研究グループはCAFsより分泌されたstromal cell-derived factor 1 (SDF-1/CXCL12) が、CXCR4 受容体を発現した骨髄由来のendothelial progenitor cells (EPCs) にエンドクラの様式で作用し、これらを癌塊にルートすることにより血管新生をるのみならず、近傍の乳癌細胞にもパクラインの様式で作用し癌細胞の増殖促進することを明らかにした(図1; Orimo A. et al, Cell, 2005; Orimo A. and Weinberg RA, Cell cycle, 2006)。

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    癌の浸潤・転移に寄与しているのがcomplete EMT (epithelial-mesenchymal transition)を経た単一癌細胞なのか、あるいは細胞接着能を有した個々の癌細胞が形成する細胞集団(クラスター)なのかは明らかではない。近年、癌細胞クラスターが細胞死抵抗性を亢進し浸潤・転移に必須であることが複数のグループより報告されている。しかしながら、これらの多くの研究では癌細胞株やマウスで発症した癌モデルを解析に用いていた。患者癌において、単一癌細胞あるいは癌細胞クラスターのいずれが浸潤・転移するのか?その過程はEMTで媒介されているのか?を明らかにするために、我々のグループは40例の手術により切除されたヒト大腸癌を免疫不全マウスに皮下移植した。そして皮下で生着・増大したpatient-derived tumor xenograft (PDXs)を摘出し、作成された細胞懸濁液を別のマウスの直腸粘膜に注射した。13例が同所移植により癌を形成しその内8例が肝臓や肺に自発的にマクロなレベルで転移を形成した(図2; Mizukoshi K., et al., Int J Cancer, 2020)。

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   そして、これら患者大腸癌およびPDXの原発巣と転移巣の免疫組織学的検討を行い、以下のような転移モデルを明らかにした(図3;Mizukoshi K.,et al., Int J Cancer, 2020)。 原発巣にはE-カドヘリン陽性で上皮系の性質を呈した癌細胞(E type)と、E-カドヘリンとZEB1共陽性で上皮系と間葉系の両方の性質を呈した癌細胞(E/M type)が存在した。これらの大腸癌細胞はクラスターを形成し、局所浸潤し、抹消血液中で検出され、遠隔臓器における転移形成に寄与した。また、転移したE/Mタイプ癌細胞は上皮系の表現型に戻ることより、転移コロニー形成を促進した。このように癌細胞クラスターにおけるE/Mタイプが浸潤・転移に寄与していると考えられる。 

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 癌微小環境よりの刺激が癌細胞の浸潤・転移を促進することが報告されているが、 上述のような癌細胞クラスター形成と癌微小環境の関与に関しては殆ど研究されていない。さらに、CAFsが癌の浸潤・転移をどのように促進するのかは論争中であり定説がない。

 我々はCAFsが癌細胞に部分的EMTを誘導し、癌細胞クラスターの形成を介して、浸潤・転移を促進することを明らかにした(図4; Matsumura, et al. Life Sci Alliance, 2019) 。ヒト乳癌細胞とCAFsを免疫不全マウスに共移植し形成された癌塊より移植された癌細胞を抽出した。これらの癌細胞は、CAFs由来のSDF-1およびTGF-βにより、上皮系の性質を呈した癌細胞Ehi (E-cadherinhiZEB1lo/neg) タイプと、E-カドヘリンとZEB1共陽性で上皮系と間葉系の両方の性質を呈した癌細胞E/Mタイプ (E-cadherinloZEB1hi) の性質を獲得していた。この2種類の乳癌細胞がクラスターを形成することにより、細胞死抵抗性および高浸潤・転移能を獲得していることが明らかになった。さらに肺に転移したE/Mタイプ癌細胞は上皮系の表現型に戻ることより、転移コロニー形成を促進した。

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​    CAFsにより誘導されたE/MおよびEhiタイプの表現型や高浸潤・転移能が癌細胞に安定的に維持されていることがわかっている。CAFsが癌細胞に不均一性(少なくてもEhi, E/Mタイプ)を誘導する分子機構のさらなる解明および高浸潤能・転移能が癌細胞に安定して維持される際のエピゲノムのリプログラムに関する研究が進行中である。  

2.CAFsの癌促進能の維持機構および細胞多様性の調節機構の解明
   CAFsが癌促進能を安定して維持していることが知られている。しかしながらその分子機構は不明である。我々は以前、癌進展過程において乳癌由来CAFsが、SDF-1およびTGF-βシグナルをオートクラインの様式で獲得することが活性化筋線維芽細胞能や癌促進能の誘導・維持に必須であること明らかにし(図5; Kojima et al., PNAS, 2010)。また、近年の単一細胞解析の開発によりCAFsが筋線維芽細胞や炎症性線維芽細胞など複数の亜集団より形成されていることがヒト癌で報告されている。これらの亜集団の構成は癌微小環境よりの刺激により癌進展過程でダイナミックに変化していると予測される。しかしながらこれらの亜集団の構成の調節機構はあまりよく理解されていない。亜集団構成の調節因子を同定し、CAFsの表現型の可塑性との関係をより深く理解するための研究を遂行中である。

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3.CAFsを標的にした新規癌治療法の開発
     CAFsが癌の増殖、浸潤・転移促進作用を持つことより、CAFsが癌治療の標的細胞になりうると期待される。CAFs亜集団の意義を考慮しつつ、CAFsの増殖抑制や細胞死を誘導する薬剤の同定を進めている。
 

臨床研究に関する情報公開

 病理・腫瘍学講座では上記の研究テーマに関係する臨床研究を進めております。

1. 乳癌微小環境のバイオマーカー同定による癌生物学や治療学への応用
     https://www.gcprec.juntendo.ac.jp/kenkyu/detail/377?s=/kenkyu/search2

 

2. 膵がん微小環境のバイオマーカー同定によるがん生物学や治療学への応用

    https://www.gcprec.juntendo.ac.jp/kenkyu/detail/5413

3. 食道癌微小環境のバイオマーカー同定による癌生物学や治療学への応用

    https://www.gcprec.juntendo.ac.jp/kenkyu/detail/5367

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